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東京地方裁判所 昭和34年(モ)13073号 判決 1960年4月26日

債権者 大野明政

右訴訟代理人弁護士 水本民雄

谷口欣一

債務者 河村逸次

右訴訟代理人弁護士 関原勇

根本孔衛

主文

1  当裁判所が昭和三十四年(ヨ)第五、五〇七号不動産仮処分申請事件について、同年九月二十三日した仮処分決定は取り消す。

2  本件仮処分申請は却下する。

3  訴訟費用は、債務者の負担とする。

4  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

(被保全権利の存否について)

一、本件建物が債権者の所有に属することは当事者間に争いがなく、これと成立に争いがない甲第四、五号証、証人谷口安彦の証言によりその成立を認めうる甲第一号証から第三号証の各一の記載及び存在並びに同証人の証言を綜合すると、債権者は昭和三十四年八月六日、日本住宅に対し株式会社加藤工務店の連帯保証の下に、金三十万円を、弁済期を遅くとも同年十月二十五日、利息を月三分の約で貸し付けたが、その際、右日本住宅の社員谷口安彦から右債務の担保として本件建物の権利証及び登記簿謄本の交付を受けた事実が一応認められるが、右谷口が債務者から代理人として本件物件につき抵当権を設定する権限を付与されていた事実は債権者の全立証を以てしてもこれを認めるに足りない。

そこで債権者の予備的主張について判断するに、前記説示の事実に証人谷口安彦の証言、債権者並びに債務者(但し後記措信しない部分を除く)各本人尋問の結果を綜合すれば、本件建物は債務者の所有の属することとされているが、債務者の義弟小柳藤平がこれに居住して賃料の支払をすることもなく、住宅金融公庫に対する建築資金の月賦弁済は、小柳藤平が負担し、その完済の上は本件建物の所有権は小柳に移転する約定が債務者との間に存し債務者としては本件建物の実質上の所有権を主張できない立場にあるため、かねてから本件建物の権利証もみずから進んで小柳に預ける(債務者が小柳に本件建物の権利証を預けたことは当事者間に争いがない。)等して本件建物に関する一切の権限を小柳に委任しており、小柳がつぎに述べるとおり日本住宅から融資を受けて本件建物に増築を加えることを債務者に話した折、債務者は、これを了解して異議を述べていないこと、一方、日本住宅は建築代金を月賦で返済を受けることを建前とする建築会社であるが、時として、請負契約締結に際して顧客から建築代金の三分の一に相当する頭金を受領するか、又は顧客がこれに相当する担保物件を提供する場合には該物件を担保に顧客が第三者から少くとも頭金に相当する融資を受け、これと、日本住宅のその他の資金繰りをした金員を加えて建築を完成し、その暁には建築物件を金融機関に担保に提供して融資を受けてこれを以て建築代金に充当する方法による場合も存するところ、日本住宅は小柳から、本件物件の増築を請負つた際、小柳のため第三者から建築代金八十余万円のうち頭金相当の融資を受けること及び債務者の代理人として本件物件につき右債務の担保のため抵当権を設定することの委任を受け、本件物件の権利証及び登記簿謄本の交付を受けたにもかかわらず、谷口は、小柳を借主とすることなく、日本住宅を借主として債権者との間に前説示のような消費貸借契約を締結した上、該貸借上の債務の担保として債務者所有の本件物件に抵当権を設定する旨約し、前記権利証と登記簿謄本を債権者に交付したこと、債権者は右書類の交付を受けて抵当権設定登記に必要な書類が調つているものと信じていたが日本住宅から前記債務の支払のために受領していた手形が不渡になつて始めて右書類のみでは登記が不可能であることを知り、谷口に債務者の委任状等の交付を要求したが、当時、谷口はすでに日本住宅を退職し、会社の当事者と疎通を欠いていたのでその履行ができなかつたこと、等の事実を一応認めることができる。債務者本人尋問の結果中には債務者が権利証を小柳に交付しておいたのは自己が印鑑を所持し、小柳が権利証を所持していれば、相互に本物件を処分できないとの意図の下にしたものであり、小柳には本件物件の抵当権設定の代理権がない旨の供述は前顕疎明資料に照してにわかに措信できないし、他に右一応の認定をくつがえすに足る資料はない。

右一応の認定事実によれば、債務者の代理人小柳から委任を受けた日本住宅の社員谷口は、債務者の復代理人として、小柳の金銭債務の物上保証としてのみ債務者所有の本件物件に抵当権を設定すべきであつたのに、その権限を越えて、日本住宅が債権者から借り受けた債務の担保として本件物件につき抵当権を設定し、前掲登記済証及び登記簿謄本を債権者に交付したところ、債権者は右谷口が債務者からかかる抵当権設定の権限を与えられているものと信じたというわけであるが、代理人と称する者が抵当権設定に当り、目的物件の登記済証と登記簿謄本を持参し、これを債権者に交付したというだけではしかく信ずるについて必ずしも正当な理由が存する場合にあたるというをえないと解するを相当と考えるので、債権者は、谷口のした前記抵当権設定行為について本人としての責任を負うことなきものといわなければならない。

(むすび)

以上の説示によれば、債権者の仮処分申請は理由がないことになるから、これを認容した主文第一項掲記の仮処分決定は取消し、債権者の申請を却下することとする。よつて訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九十五条、第八十九条を仮執行の宣言について同法第百九十六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川善吉 裁判官 高木積夫 裁判官寺沢光子は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 小川善吉)

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